こんばんは。masayan(@masayan382)です。
今は退きましたが、かつては東京の某病院の救命センターで勤務していました。
そこでは昼夜問わず、二次、三次救急という重症患者の受け入れを戦場とし日夜働いていました。
そこでは、まさしく生と死の狭間にいる患者様を相手に働いていました。
もはや話すことができない患者様には問うことのできないことを、ご家族の方に判断を委ねる状況があります。
それは…。
「現在あなたの大事なご家族が瀕死の重症です。救命処置を希望されますか?」
といったことです。あなたは大事な人の「命」に関することをその場で即決することができますか?
今日はそんなお話をします。
興味がある方は読み進めてください。
救命センター時代の話
昼も夜も絶えず搬送されてくる患者さま。
頭蓋内病変や循環器疾患、交通外傷に、殺傷事件、自殺未遂、薬物過量内服など様々な方が搬送されますが、特に多いのがCPAです。
CPAとは!?
心肺停止(しんぱいていし)とは、心臓と呼吸が止まった状態。CPAともいう(英語: Cardiopulmonary arrest の略)。
心臓の動きが先に止まる場合と、肺の動き(呼吸)が先に止まる場合とがあるが、いずれの場合でも放置しておけば必ず両者は合併し「心肺停止状態」となる。しかし蘇生の可能性が残されているため死亡状態ではない。
脳に血液が行かなくなるため、手遅れになるとたとえ命は助かっても脳死状態になる危険があるので、この状態に陥った患者に対しては、人工呼吸や心臓マッサージなど、迅速な救命措置が必要である。引用元:Wikipedia「心肺停止」
いつ、どんな疾患の方が搬送されてくるのかわからないわけですが、うちの職場では魔の時間帯があります。
それは、朝の6-9時の時間。
通称、【おはようCPAタイム】です。
おはようCPAタイムとは!?
朝一番でご家族が発見する心肺停止状態です。読んで時のごとくです。朝イチでご家族が発見するケースが多く、夜勤のナースや当直医師が夜中から働き続け、もうすぐ日勤者と交代だー!とへとへとになってる時間帯で発見、搬送されてくる油断できない時間帯なのです。
では、実際にあったケースを見てみましょう。
ケース・おはようCPA
あなたは30歳のサラリーマン。妻(28歳妊娠中)と母(63)の三人暮らし。
朝の7時。何時ものように起床し、顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直し、スーツを着て、妻が作った朝食を食べてる最中の妻とのやり取りです。
あれ、朝刊は?
いつもはお義母さんが朝郵便受けから取ってくるのに今朝はまだみたいね。
母さんは?
まだ起きてこないのかしら?起こしに行ったほうがいいのかしら?
まぁ、一声かけてきてよ。
あなた大変、お義母さんが部屋にいないの。
トイレじゃないか?
トイレにもいないわ。あれ、サンダルもない。外かしら?
あなた、義母さんが郵便受けの前で倒れてるわどうしましょう。
なんだって?呼び掛けても返事もしない。息…してないぞ。救急車だ!救急車!!
ということで、当院の救命センターへCPAの状態で搬送されてきました。
ちなみに、搬送された救命センターで私が「GUMBA」について確認しました。
聞かれたらみなさんGUMBAについて答えられますか?
搬送後の初療室にて
心肺停止状態。心臓マッサージを継続中。
医師から長男のあなたと妊娠中の妻にのような話をされます。
現在、心臓が止まっており息もしていない状態です。現在心臓マッサージをしていますが、心拍が再開するかはきわどい状態です。
心臓マッサージを止めればその後、心拍が自然に再開することはないでしょう。蘇生行為を続行されますか?
もちろんです。お願いします。
もしも、かろうじて心拍が再開しても、すぐに自分で呼吸できなければ再度、心停止になる可能性もあります。気管挿管といって気管まで管を入れて人工呼吸器につないで呼吸を補助する必要がでてきます。つけた後は容易に外せなくなりますがよろしいですか?
わかりました。お願いします。
心拍が再開しても血圧が低ければ心停止に戻ってしまいます。血圧を上げる昇圧剤というお薬を使う必要もでてきます。こちらも容易に外すことはできないことにもなりますがよろしいですか?
構いません。母を助けてください。
わかりました。全力を尽くしますが厳しい状態であることはご理解ください。
その後、気管挿管し、心拍が再開、昇圧剤を使用し、なんとか一命を、とりとめることに成功しました。
一命はとりとめました。
あなた。よかったわね。
あぁ。よかった。
しかし、未だ自発呼吸もなく、血圧も昇圧剤に完全に依存している状態です。こちらが頭のCT画像なのですが、低酸素脳症が見てとれます。心肺停止状態が長すぎました。この2~3日が山場でしょう。今のうちに会わせたい人がいらしたら早めに会わせてあげてください。
そうなんですか…。わかりました。先生、看護師さん本当にありがとうございました。
そして数日後…。
血圧も呼吸も安定しました。本日、気管チューブを外し、自発呼吸でも安定しております。数日前から昇圧剤を徐々に減らし、昨日昇圧剤を切ったのですが血圧も安定しています。ですが、意識は戻らず、眠り続けているような状態です。
母は目を覚ますのでしょうか?
覚ますかもしれませんが、覚まさないかもしれません。現在、栄養を鼻から胃まで入れている管で液体の栄養剤を入れています。
口からごはんは食べれるようになるのでしょうか?。
本人が目を覚まし、ご飯を飲み込めないのであれば口から摂取は望めないでしょう。
今後はどうなるのでしょうか?
リハビリをしながら療養方面に話を進めようかと思います。現在は急性期を脱しつつあるので、数日後には一般床へ移動し、その後自宅か、無理なら療養型の病院や施設になるでしょう。ソーシャルワーカーさんにも入ってもらい今後のことを考えて行きましょう。
わかりました。
転棟前日
面会にいらしていたのでお通ししようと控え室の扉の前へ行った際に聞こえてきた会話です。
あなた、今後どうするともりなの?
どうって何が?
今後は介護なんて、自信ないわ。これから子供も生まれるのよ。子育てしながらお義母さんの面倒なんてとてもじゃないけど見れないわよ。
そんなこというなよ。
あなたはいいわ。どうせ会社で働いてるだけなんだし。私には休みもないのよ。24時間、赤ちゃんとお母さんの世話するのは私よ。
…わかったよ。母さんは施設の方で話を進めよう。
あなた、施設って言っても毎月いくらかかると思ってるの?オムツ代や、お尻拭きだってタダじゃないんだからね?わかってて言ってるの?
じゃぁ、どうしろっていうんだよ。家で面倒も見れない、施設に入れる金もないじゃどーしろっていうんだよ!!
あぁ~、あのとき死んでくれてたらこんなことにならなかったのに!先生はもって2~3日って言ってたのに生き延びちゃったじゃない!
なんてことを言うんだ、おれの母親なんだぞ!
じゃぁ、あなたが、面倒見ればいいじゃない!あなたの母親なんでしょ!!
…。
とてつもない修羅場のようでした。
翌日、一般床へ移動されその後、施設の方へ転院されたと聞きました。
ここまででみなさんはどう思いますか?
奥さんが悪いですか?
安易に救命を希望したご主人が悪いですか?
医者の説明が悪いですか?
奥さんが救命を希望した旦那さんを制止しなかったのが悪いですか?
それとも心臓が止まったお母さんが悪いですか?
たぶん、誰も悪くないんです。
では、後半戦といきましょう。
個人的な見解
個人的な意見としては、医療者の蘇生と、一般の方の蘇生のイメージが違うんだと思います。
我々、医療従事者の心肺蘇生って、心停止から10分経ってたらアウトってわかってるんです。
ですが、一般の方が蘇生って聞いたら今まではとおりに元気に復活するんでしょ?って思ってる方も中にはいらっしゃいますよね?
現実は違うんです。CPA状態の心拍再開後の生存率って高くないですし、障害も残りやすいです。
私がこのケースで辛かったのは、助けなきゃよかったのか?と思ったことです。
人を救うって非常に難しいんです。
養成学校を出て、試験を受けて、国家資格を取った人間が現場で練習して、勉強して、指導してもらってようやくです。
しかも、一人では救えないのです。
医者と看護師が複数人欲しいです。欲を言えば医者、研修医、看護師、看護師くらいのフォーマンセルだとありがたい。
最悪、医者、看護師、看護師のスリーマンセルがギリですかね。
それでもちと辛いです。大の大人が複数人ががかりでようやく一人の人間を、救命するんです。
飲まず、食わず、眠らず、休まずでがんばって救った命を「なんで生き延びちゃったんだ」って言われたら、悲しいです。
そして、それ以上にお母さんの気持ちが気になりますね。
もしも、しゃべれないだけで聞こえてたら。
自分が生きてることで息子夫婦が喧嘩してるなんて、いたたまれないですよ。
「私が死んでればこんなことにはならなかったのに」なんて、思ってもほしくないです。
私が思う救命と延命の価値
人の命を救いたい。そう願って救命科を希望しました。人の命を救うことは正義。命とは尊いものである。
そう思って生きてきました。働いてきました。
人の命を救うことが全てではないということを救命センターで学ぶという皮肉な結果となりました。
では、どうしたらよいのか。
私が思うのは、その人が生き延びることで果たしたいことが果たせるのかどうかです。
日々、生きてるだけで嬉しいという人なら生き延びる価値があるでしょう。
しかし、趣味の盆栽がいじれなくなるとか、好きな物が食べれなくなるとか、そんな状況では生きる価値もないって思うようならどうでしょう?生きる意味はあるのでしょうか。
難しいです。結局は血縁者と言っても他人ですから。思い察することしかできないですね。
一番の最善策は生前のうちに救命行為の希望するのか確認すること。
実際、在宅ケアを受けている方で延命や救命を希望しないという意思表示をされている方もおられます。
死を受け入れるという選択
若い人は蘇生できる可能性も高いですが、高齢者は特に難しいですね。
心臓マッサージをすれば心臓がもういちど動き出すかもと期待される方もいるかもしれません。
しかし、デメリットもあることをご存知ですか?
それは、肋骨の骨折です。
正確には心臓の上にある胸骨を圧迫するのですが、骨が脆い方になってくるとボッキボキに胸骨付近が折れます。
この記事をご覧になってる方で肋骨骨折をされた方はおられますか?私はスノーボードで肋骨二本にひびが入ったことがありますがそれでも地獄の苦しみでした。完全骨折した方はさらなる痛みを受けたことでしょう。
手足とは違い、肋骨はギブス固定できないので自然治癒を待つしかないですからね。
心肺蘇生後はその苦しみを与えてまで生きたほうがいいのでしょうか?
寿命や天命という考え方もあると思います。
人は生まれた時から死に向かって生きているわけで、『死』からは逃れられないのです。
本人はもう死にたいって思っていても、残される家族が親の死を受け入れられなくて延命するケースは多々あります。
赤の他人である私が、見ていて「もう90歳なんだからもういいんじゃない?」って思うことも多いです。
「90歳で死んじゃだめなら何歳何か月になったらあなたは親の死を許可できるの?」って患者さんにご家族に聞きたくなることも多いです。
…、まぁそんなこと言えないし聞けないですけど。
看護師の間では救命や延命をされたくないと言う人が多いです。
それはやはり、その後どうなるのかが見えているからでしょうねきっと。
まとめ
冷静に考えたって答えはないです。正しいか正しくないのかそれを評価できるのは時間が経ってからなんです。
我々ができることは、その瞬間、できうる最大限の最善策をとることのみです。
救命を希望する場合は救命できたあとはどうなるのかまで考えた上で結論を出してください。
その人が望む形を提供できたらいいなと個人的には思います。
この記事を読んだ数時間後、あなたの大事なご家族様にもしもの事があったとき、冷静にその場で判断できますか?
今のうちに確認できることを確認してみてはいかがでしょうか?
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